学生実習にみるタイムパフォーマンスの意識

2023年度~2024年度途中まで大学病院の病棟のマネージメントをしていましたが、大学病院では診療・研究とともに教育も重要な1つの柱ではあります。医学部医学科における教育と言ってもいろいろあり、低学年には医学と関係ない一般教養科目ももちろんありますが、年次が上がって病院実習となってくると、附属病院の病棟が主としてその対応にあたるわけです。

現代の医学生実習にみるタイパ

自分が学生実習をしていたのは約20年前、その頃は基本的にすべての診療科を順番に短期間で実習するという感じでしたが、現在はある程度決められたプログラムの中から学生が個々に選ぶ、といった感じで昔のように興味があろうがなかろうが全ての診療科をライトに回るようなことは基本的にありません。正確に言えば、様々な臨床実習の形が出てきているので昔のように短期間、多くの診療科を回るような実習もないわけではないですが、それでも「全ての学生が」「基本的に全ての診療科を実習する」という感じではなくなりました。

そうなると、全ての学生を見ているわけではありませんが、それでもかなりの数を見ていて自分たちが学生だった時代とリアクションは違うな~と思うのが、時間的な効率性の重視、いわゆる「タイパ」の重視ということでしょうか。物心ついたころから、調べたいことは即座にインターネットを用いた全文検索で可能、あるいは何だったらAIネイティブな時代の学生たちですから、効率重視は当然かもしれません。質問も「これ1冊、あるいはこれだけ見ておけば(当座は)十分という感じの資料を紹介してください」的なものが増えたと感じています。

内科の実際の診療にみる不確実性

翻って、脳神経内科の実臨床をみてみると診断、治療が「効率的」に進まないことも多々あり、何だったら神経変性疾患の多くは根本的な原因がまだ分かっていないものでもあります。もっと広く内科ということをみても、現代医療をみれば少なくとも国内ではよほど先進的・特殊なものではない限り、田舎であろうが都会であろうが診断や治療に関する情報の量・質・そして提供の可否に関して大きなギャップはなくなってきたものの、相手が人間であるが故に理屈通りに行かないことも多く、治療方針の決定や現状の理解を共有する場合に合併症を含む本人の身体的な側面のみならず、周囲の家族なども関与する社会的・経済的な側面も複雑にからむこともあります。

そういった事情を鑑みながら思うのは内科の診療とは医療者側の視点からすると、ちょっと数理的な言い方をすれば、最優先する目的(結果)が当の患者さん本人の利益とすれば、その「利益」の定義(必ずしも疾病治癒だけが「利益」とは限らないことも)から始まり、その「利益」を最大化するために、本人以外の要素も絡む様々な制約条件を考慮しながら、最も「効率的」な方策を考えて提案するというプロセスの繰り返しという部分もあります。その過程は効率的という言葉とは反対のことも多い、というかそういうことばかりかもしれません。

内科の今後

脳神経内科は内科の中でも少数派、ではあると思いますが広く内科全体としてみても、人気は昔と比べてもどんどん下がっているようです。それには専門医制度の問題も少なからず影響はあるかとも思いますが、効率重視の現代医学生の趣味趣向を鑑みると、広い意味で興味関心が向きづらいのかなとも思います。

これからあと20年後、現在の医学生の世代が40代中盤になったときにこの国の様子が、大多数の認識がどうなっているかは本当に想像できませんが、少なくとも現在の医学生がこれから現場に出る時に、内科診療のメインの対象となる世代(中年期~高齢期)はまだまだデジタルネイティブ世代とは言えず、じっくり向き合うとしたら効率よく情報を集めて解釈できる今の10代・20代のスピード感とは違った感覚が求められますからね・・・。自分の心地よいスピードのみで進めるのではなく「相手に合わせる」という、極端なことを言えばあえて「非効率」意識しないとできないことをどれだけできるのか。それを考えると自分が老年期になったとき(20年ちょっと後ですが)の内科診療を中心に担う人たちがどのような状況になっているのか、に一抹の不安はありますね。たいした実績の無い教員の一人としては、自分の診療科、広い意味では内科の良さを地道に学生や研修医の方々に伝えていくことしかできませんが・・・。